(五年生・春1)(後) 文次郎は、埃っぽい、ひび割れた壁に寄りかかり、腕を組んで食満を見た。食満は困ったような様子で床を見 ている。 「潮江は口が固いよな」 「口が軽くちゃ忍は務まらんだろ」 食満は何か言い淀むような動作をした。 (やはり何か重大な病が) 先ほどの嫌な想像が頭をよぎる。 「秘密は守ってやるから言ってみろ」 潮江が続きを促すと、何かを決心したらしい食満は丹前の紐を解き、寝間着の袷を少し開いた。 文次郎はぎょっとして、開いた袷から露出した、意外に白い素肌を凝視してしまった。 (ちょっと待て、こいつそういや伊作と出来てるんだよな、つまり男もいける口な訳で、何、狙われてんの、 俺、狙われてんのか) 食満が文次郎の右手を取る。混乱した文次郎の口から、ひっ、と情けない声が出た。食満は黙っている。 文次郎の手を、食満は自らの袷の中に導いた。文次郎の指先に柔らかい感触があった。 (え、) 思わず手を動かして見ると、ほんの僅かにではあるが、膨らみが有る。食満は黙って文次郎のするが儘になっ ている。 「んっ」 文次郎の傷だらけの硬い指が脇の二寸下辺りを掠めると、食満が息を詰めた。 (うおおおっ) 文次郎は慌てて食満の懐から手を抜いた。炎に照らされた食満の頬が、仄かに赤く染まっている。胸元は、文 次郎が手を抜いた時に乱れてしまったらしく、申し訳程度の慎ましやかな膨らみの先の、薄赤い突起が露出し てしまっている。 (うえ、俺、食満の胸をも、揉んで) 文次郎は釣られて顔を赤らめる。 (と、いうか) 「お、女なのか、お前」 「悪かったな、男か女かわからん位の胸で。下も見るか」 「い、いや、立派に柔らかい感触が、って何言ってんだ、俺」 混乱して余計な事を言ってしまった、と文次郎は前髪をぐしゃりと握る。 「それじゃあ、今日具合が悪かったのって、もしかして」 「ああ、月の物が」 (うぎゃあああ) 最早文次郎の意識は崩壊寸前である。あまりのことに現実が理解出来ない。 「と、いうかお前、胸仕舞え」 「ああ」 寝間着の袷を整える食満を見ながら、文次郎は必死で落ち着こうとする。 「それ、知ってるのか、」 伊作は、と続けようとして、それが愚問だった事に気付いた。 「流石に初潮が来た時に先生方にはばれてる。後は伊作が、同室だから。」 「何で男として入学したのか聞いてもいいか」 文次郎は前髪を掻き回しながら食満を見た。 燭台の灯りが揺らめいて、食満の顔に影を作った。 「俺、戦忍になりたくて。くの一だとどうしても情報収集や間者とかで、合戦場では使って貰えないだろ」 「何でまた」 食満は戸に掛けておいた錠前を手に取って弄びながら、話すと長くなるんだけど、と前置きした。 「俺、八つの時に強姦されたことがあって」 いきなり出て来た物騒な単語に文次郎はぎょっとする。 「家の近くの長屋に住んでた若い男でな。俺はお兄ちゃんって呼んで慕ってて、家に出入りしてた。流れ者だ って近所では嫌われてたんだが、俺のことはよく面倒を見てくれたんだ」 淡々と話す食満の表情からは感情は何も読み取れない。 「ある日家に行ったらお兄ちゃんは酷く焦っててな、帰れって言うんだが、俺は我が儘言って帰らなかった。 そんで気付いたら服脱がされてた。その次の日、お兄ちゃんは行方を暗ました」 食満はふ、と息をついた。 「後になって知ったが、元々はどっかの城の忍だったらしい。追手に見つかったんだな。足抜けは大罪だ。」 「そいつ捜し出して、復讐するつもりか」 「まさか、もう顔も覚えちゃいない。大体、自分が生命の危機に晒されたからって、とち狂って八つの女に手 を出す様な忍者だ。もうどっかで野垂れ死んでるさ」 食満は唇の端を吊り上げた。文次郎には泣きそうな笑顔に見えた。 「それに、恨んではないんだ。俺は、嫌じゃ無かった。」 かしゃん、と、食満の手の内の錠前が音を立てる。 「勿論、何されるのか分かんなかったし酷く痛かったしで怖かった。でも、お兄ちゃんのことは嫌だと思わな かった。多分、好きだったんだ」 食満は目を伏せる。長くはないが、綺麗に生え揃った睫毛が下瞼に影を作った。 「顔は忘れたが、俺の事を呼ぶ声ははっきり覚えてる。」 食満が顔を上げて、文次郎の目をじっと見た。 「お前の声に似てるよ」 ぎい、と音を立てて、食満が用具倉庫の戸を開けた。 「悪かったな、変な話して。出来れば明日からも、今迄通り男として扱ってくれると助かる。」 ふ、と燭台の灯りを吹き消して、食満が言う。 「分かった。その代わり一つ聞いていいか」 「ん」 「何で、俺にばらした。」 「今日助けて貰ってときめいたから」 ぶっと吹き出した文次郎に、食満は大爆笑した。 「うわ、動揺してやがる」 「てめえ」 一通り笑った後、何でだろうな、と食満は言った。 「何だかんだ言っても、俺はお前を信頼してるんだ。喧嘩仲間だからな」 にやり、と性格悪そうな顔をして食満は続ける。 「女は殴らんとか言うなよ、忍なんだから。手加減ってのは、相手より自分が勝ってる時のみ許されんだよ」 「お前、俺より弱い癖して手加減してやがったじゃねぇか。」 「今度からは全力でやってやるよ。女に負けて吠え面かくなよ」 戸に錠前をかけながら、食満は目を細めた。 ――――――――――――――― キャラ崩壊?自覚してます。 何かいろいろとすみません。 食満の乳はホントに有るか無いかの微乳です。 貧乳のが感度いいらしいよ!食満!