・潮江が最低です。
・尿注意
びょうびょうと風が吹いる。月が薄らと雲に覆われその輪郭を曖昧にしている様は、風流と言うよりは不気味だ。見上げると何となく不安な気持ちになる。
食満は自らの首筋に手を充て、ぐるぐると肩を回した。身体が石のように強張っていた。用具倉庫の固い床に腰掛け、小さな灯りを頼りに手裏剣を磨いていたのだから無理も無い。風呂はもう冷めちまったんだろうな等と考えながらとぼとぼ歩いていると、白っぽい寝間着の人物が向こうからふらふらと歩いて来るのが見えた。
「文次郎」
木に凭れ掛かる白っぽい物体、潮江に食満は声をかけた。潮江の肩がびくりと跳ねた。
「あ、留三郎か。なんだ、見回りの教師かと思った」
なぜ教師だとまずいのだ、と聞こうとして食満は口をつぐんだ。理由を察したからだ。潮江は側に寄るだけではっきり分かる程酷く酒臭かったのだ。
潮江文次郎という男はぎんぎんに忍者をしているという異名のわりには三禁に対して緩い、と言うのは六年の中での共通認識である。支障が無ければいいんだ、と潮江が嘯く様を思い出して食満は顔をしかめた。これは明らかに支障が有る域である。
食満としては正直こんな酔っ払いは放っておいてさっさと寝たかった。ごりごりに凝った身体を、特別柔らかいとは言えないが、倉庫の床よりははるかに具合の良い煎餅蒲団に横たえて惰眠を貪るのだ。善法寺の手が空いていれば、按摩を頼むのも良いかも知れない。人体を知り尽くした彼の手による按摩は、それは気持ちが良い。そこまで考えて食満は溜息をついた。これを放って部屋に戻るのは自分の性分では無理だ。食満はどこまでも面倒見の良い男である。
「おい」
「黙れ。酒臭い息を吹き掛けるな。酔っ払いめが。井戸まで連れてってやるから、水を飲んで顔を洗え」
だらりとぶらさがった潮江の腕を取って肩にかけ、食満はずるずると酔っ払いを引き摺って歩き出す。
「おっまえ、自分で歩け。少しは協力しろ」
無駄にでかい図体のくせに、と動こうとしない潮江を睨もうと振り返った食満は、突然口を塞がれてむぐ、と間抜けな声を出した。潮江の酒臭い口が食満の口をすっぽり覆っている。肉厚な舌が入り込んで食満の舌を絡め取り、上顎をなぞった。微かに甘い気がするのは、酒が残っているのだろうか。
食満は押し退けようと腕を突っ張ったが、酔っ払いのどこにそんな力が有るのか疑問に思う程がっちりと押さえつけられ、びくともしなかった。喧嘩では互角でも、単純な力比べでは食満は潮江に勝てない。不意に下半身が押し付けられ、脚の付け根にぐ、と硬い感触が当たるのに、食満は口の中で悲鳴を上げた。
「てめっ何考えて」
「こういうのを酔い魔羅つうんだろうな」
「知るかっぼけ」
もうこの酔っ払い嫌だ、と食満が涙目になっているうちにも、潮江はぐいぐいと食満を押しやって来るので、食満は木を背に地べたに座り込むはめになった。
「いい加減に」
殴って正気に戻してやる、と拳を振り上げようとして食満は固まった。潮江は寝間着の裾を捌いて、ずらした下帯の脇からおもむろにに陰茎を取り出した。斜め上を向いたそれは、ちょうど座り込んだ食満の顔の真ん前にあった。
うそだろ、と縋るような気持ちで食満は潮江を見上げたが、見上げたその顔は真顔で、妙に目が座っているあたりに酔っ払い特有の厄介さを感じる。
「舐めろ」
鼻先に陰茎を突き付けた潮江は、低い声で命令した。つんとする特有の臭いから逃れようと、食満は顔を背けた。
「てめ、風呂入ってねぇだろう」
ひたひたと頬を軽くはたかれて泣きそうになっていると、潮江はうるせぇと声を荒げ、無理矢理食満の口に亀頭を突っ込んだ。
「んんっ」
「しっかりしゃぶれよ。お前きたねぇちんこ好きだろ、淫乱」
ひく、と食満の喉が震えた。普段の姿から想像つかないが、食満は房事の際に被虐的な事に喜びを見出だす傾向が有る。この場合も少なからず、罵られ屈辱的な行為を強いられることに興奮し初めてしまった。
「ううう」
威嚇する野生動物のような声を上げながらも、食満はおとなしく潮江の陰茎に舌を這わせた。皮の間に溜まった恥垢を舌でこそげ取り、んぐんぐと飲み込む。唇を窄めて幹を扱きながら上顎のでこぼこした部分に尿道を押し充て、裏筋に付けた舌をひたひたと動かす。潮江が頭を撫でてくるのが心地良くて頭がぽうっとするのを食満は感じた。
いつの間にか食満は夢中になって口の中の物をねぶった。音を立てると潮江が喜ぶので、わざとらしい程にじゅぽじゅぽと大袈裟に顎を動かす。もともと吸茎は嫌いでは無い方だった。
「も、出すぞ」
息を詰めた潮江が、食満が逃げないように後頭部を押さえる。途端に喉の奥に粘った液体が叩きつけられた。
「んんんっ」
反射的に身を引こうとするが、後頭部を支えられてる為それは叶わない。食満は苦しさに涙目になりながら口の中に溜まった唾液と共に精液を飲み込んだ。
はあはあ、と荒く息を衝いた食満は、潮江に引き上げられるままに立ち上がった。
「文次郎」
「口だけじゃ収まりつかねぇ。ここで待っててやるからお前準備してこい」
あんまりな言い草に食満は文句を言おうと口を開いたが、じっと見つめられてやめた。酔っ払いには何を言ったって無駄だと思ったのもあるが、何より食満自信もこのままで収まりが付きそうになかった。熱が身体をじくじくと苛んでいる。ほら、と尻を叩かれた食満は震える脚で長屋に向かった。
寝間着に着替えた食満は先程の場所まで戻って来た。きょろきょろと辺りを見渡すが潮江の姿は無い。潮江が大分酔っていたのを思い出して食満は不安になる。よもやすっかり忘れて何処かで寝ているのではないか、人にこんな事をさせておいて、と苛々し始めたところで、後ろから急に抱きつかれて食満は悲鳴を上げた。
「うるせぇ」
「もんじろっ」
「お前おせぇよ」
潮江はもう我慢ならないとばかりに食満の寝間着の裾をからげて、その下が何も着けていないことを確認して口の端を釣り上げた。
「下帯着けてねぇんだな。感心感心」
腰を抱き上げられ体勢を崩しそうになり、慌てて目の前の木の幹に縋り付いた食満は、尻たぶを掴まれでぶるりと震える。
不意に潮江の指が菊座に突き立てられ、食満はひっ、と喉を鳴らす。
「痛ぇよ、ばかっ」
「なんだよ。綺麗にすんのにさっき迄自分でいじくりまわしてたんだろ」
「指がっ乾いてんだよ。濡らせよ」
そう言って食満が袂から潤滑油を出すのを、潮江はにやけ顔で受け取った。潮江だって濡らさなければろくに指も入らない事は百も承知であるが、ただ食満が悲鳴を上げたり、濡らしてくれと懇願したりするのが楽しいのでわざとやっている。酒が入ったことで、欲望へより忠実になっているらしい。
潤滑油をたっぷり絡めた指を潮江が入れてやれば、食満は息を吐いて力を抜くように心掛けた。指は乱暴で、食満の快感を引き出すと言うよりは、早く入れられるように解しているだけの動きであるが、それでも食満の陰茎はひくひくと勃ち上がった。
「もういい。もう、挿れてもいいから」
食満は小さな声で呟いて右手を後方に伸ばし、手探りで潮江の陰茎を擦った。指をそっと添え、優しく撫でる仕草に潮江の精神は昂ぶる。誘われるままに突き立てれば、いつもより多少きついものの素直に受け入れる。
「あ、あ」
菊座が押し広げられる感触に食満は震えた。ふ、ふ、と息をし、薄く開いた唇から舌が覗いているのがまるで犬のようで、潮江は食満の顎の下をゆるゆる撫でる。垂れる涎を飲み込もうと喉仏が上下するのが可愛いと潮江は思った。
「もんじろ、あ、ああっ」
きゅうきゅうと締め付けてくる尻穴に煽られ潮江ががつがつと腰を動かすと、食満は戸惑った声を上げた。見やれば、手に力が入らないため、木に頭がぶつかるらしい。
そのままにしておくのも可哀想な気がして、潮江は一旦陰茎を引き抜いた。そして自分の背を木に預け、首に腕を回すよう食満に言う。訳がわからないまま食満がおずおずと腕を回すと、潮江はそのまま食満を抱え上げ一気に挿入した。
「あっ、ひあああっ」
一瞬何が起こったのかわからずに、食満は潮江に縋った。食満の足は完全に地面から離れていて、体重の全てを潮江に預けている状態である。自重の分、深く潮江を受け入れるはめになり、食満は痙攣する。
「声もうちょっと抑えろ」
今更だか、ここが外であるのを気にした潮江が耳元で囁いてやれば、食満はびくりと肩を跳ねさせた。慌てて口を塞ごうとするも、両手を潮江から離す訳にもいかず、涙目になる。
「ひっ」
そんな食満に追討ちをかけるように、潮江は食満の尻たぶを鷲掴んでゆさゆさと揺らし始めた。どうしようも無くなって、食満は潮江の頭にしがみついて首筋に噛み付いた。
うっすらと目を開けると、自身の脚が不安定に空中に浮いているのが滲んだ視界の中に見えて、有り得ない体勢に食満はぞっとした。潮江がちょっとでも手を滑らせれば食満は地面に落ちる。その事に食満は恐怖を覚えた。が、それはこの異常な状況の中で何故か快感にすり替えられた。
「んんんっ」
受け入れた場所から背筋を伝って途方も無い快感が走り、叫び声を上げそうになった食満の口に力が入った。ぶつ、と歯に嫌な感触走り、口腔に鉄っぽい味が広がって、食満は自分の歯が潮江の首筋の皮膚を食い破った事を知った。同時に、噛み切られた事に興奮した潮江が食満の中に射精する。直腸に熱いものが広がるのに、食満も陰茎から精を吹き上げた。
潮江は食満を抱えたまま、ずるずると木に背中を預けたまま崩れ込み、地面倒れ込んだ。食満の上に潮江が覆い被さる形で、二人は暫く荒い息をしていた。
「は、も、この酔っ払いが。どけ、抜け、重い」
息を整えながら食満は潮江の下から這い出そうとするが、肩をがっちり抱かれ身動きが取れない。
ぼかぼか背中を殴って退くよう勧告するも潮江が動こうとしないので、食満は顔をしかめた。
「頭の芯まで酒漬けになったのか馬鹿野郎がっ」
「なあ、留。しょんべんしてぇ」
「だから抜けばいいだろうが」
「このまましていいか」
潮江の言葉にぎょっとした食満は慌てて身を起こした。しかし相変わらず尻には潮江が入ったままである。
「ふっざけんな、死ね酔っ払い」
食満は目の前の男を本気で殴ってやろうと手を振り上げたが、振り上げた手を潮江に掴まれてしまいかなわなかった。
「どうしても嫌ってんなら、文次郎、頭からおしっこかけてって言えば中は勘弁してやるが」
「馬鹿じゃねぇの、おま、本気で死ね。むしろ俺が殺す。ってあ、ああっ」
じたばた暴れて悪態を尽くが、受け入れたところに、じわ、と暖かさが広がるのに気付いて、食満は固まる。そして、ぎょえ、ともぐえ、ともつかない汚い声を上げた。
「あぁ、中暖かくてすげぇな。留、やめて欲しいなら何て言えば良いんだっけか」
「馬鹿馬鹿抜け、抜いて死ねぇっ。あ、うぅっ。か、かけてっ頭からおしっこかけてくださいいぃっ」
やけくそのように叫ぶ食満に、潮江はにやにや笑う。そして未だ排尿を続けている陰茎を引き抜いて右手で軽く支え、座り込んだ食満の前に仁王立ちになった。
頭から生暖かい液体が注ぐのに、食満は暫く呆然としていた。強制されてかけてくださいとは頼んだが、まさか本当にかけられるとは思っていなかった。何とも言えない臭いが鼻につき、髪から顔から寝間着までがべしゃべしゃに濡れていく。同時に尻穴からは精液と尿の交ざったものがちょろちょろと流れ出ていて、食満は泣きそうになった。
全てを出し切った潮江が満足気に息を吐くまで、食満は全く動けずに屈辱でぶるぶる震えていた。酒のせいか色は薄いが量の多いそれは、半分程が食満の中に、そして残りの半分が表面に出された。結局中から外まで潮江の尿に汚され、考えうるべき中で一番最悪なパターンである。
「お前もう飲んだら俺に近寄るな。むしろ二度と飲むな。っていうか本当は途中から酔い覚めてたんだろ、たちわりぃ」
「まさか、酔ってなきゃこんなことしねぇよ」
「嘘つけっ。酔っ払いがそんなきびきび喋るかっ。あぁもうお前最悪。ほんと最悪」
袖の比較的無事な部分で顔を拭って、食満は両手を潮江に向かって差し出した。
「なんだ」
「立てないから抱えろ。まさか、こんな状態の俺を放置したりはしないだろ。なあ、潮江君よ」
濡らした手拭いを絞って、善法寺は溜息をついた。
「ねぇ、なんで二人して真夜中に井戸の水頭から被るかなぁ」
呆れたような声を出す善法寺に、潮江と食満は黙り込んだ。まさか、二人して尿まみれになったから、とは言えない。保健室に蒲団を並べて、二人は仲良くくしゃみをした。
リクエスト内容は『文食満で食満の中で排尿する文次郎』でした。ももいさん、神がかったリクエストありがとうございました!
自分課題だった『尿をかけられる食満』も一緒に消化しようと無茶したため、どっちも中途半端なってしまい申し訳ない。
でも個人的にずっと書きたかった駅弁も入れられて良かったです。潮江なら食満を駅弁できますよね。
ちなみに食満に途中退場してもらって準備させたのは、「中綺麗にしてもらっとかないと小スカで済まなくなっちゃう!」という無駄な配慮。なんか、すみません…
あ、あと「尿」は「にょう」じゃなくて「ゆばり」か「いばり」って読んで頂くと、室町っぽさが増すと思うのでよろしく(後書きで言われても…)